中学時代、俺はそこそこモテてた方だと思う。
バレンタインデーとかは紙袋いっぱいにもらったりしたし。
当時来るもの拒まずだった俺は確かに彼女が切れた事はなかった。
でも誰の事も本気で好きになれず、
それに気付いた女の子の方から離れていった。
結局そういうのも面倒臭くなって、
親父達が再婚した頃から俺は空手一本で今に至るわけだが。
まぁ今は男子校だし、そんな事も全くなくなったけどな。

「ヒビキがモテるのは知ってたんだ。
 とっかえひっかえ彼女が変わってる事も。
 中学に入ってから勉強が忙しくなって中々様子を見に行けなく
 なってた時に、たまたまヒビキと同じ学校だった友達が
 色々学校での様子を教えてくれてね。
 その日はそいつと遊ぶ約束してて、ヒビキの学校まで行ったんだよ。
 で、校門の所からヒビキのクラスの窓を見たら偶然ヒビキが窓際に
 座ってて。
 取り合えず元気そうで良かったと思ってた時、
 一人の女の子がヒビキに近寄っていきなりキスした。」

……ん〜、そんな事があったような気もしないでもない。
あまり記憶が定かではないが……
そう思いながら俺は頭をポリポリかいた。

「その時はただびっくりしただけだった。
 でもその後友達の話は全然耳に入らないし、
 帰ってからはあのシーンが頭から離れなくて、
 自然と涙が出て止まらなかったよ。
 しばらくして自分がショックを受けたんだってわかったけど。
 でもそれ以来様子を見に行けなくなった。
 食欲もなくなって、どんどん元気がなくなってきた時
 母さんが話をしたいといったんだ。」

俺から視線をそらしたままのカナデの目には微かに涙が浮かんで
いた。

「母さんの話は大きく分けて2つ。
 まずは父さんと再婚したいという事。
 父さんが母さんにずっと連絡入れてきてたのは知ってたし、
 母さんが悩んでるのも知ってた。
 二人の間でどんないきさつがあったのかは知らないけど、
 悩みぬいた挙句に出した結果なんだからちゃんと応援して
 やりたいと思ったよ。
 だから賛成した。でも正直すごく複雑だった。
 ヒビキの顔を見たら、
 またあのシーンがよみがえってきて辛い思いをするのが
 目に見えてたから。
 それをヒビキに気付かれない様に一緒に暮らせるんだろうかって。
 そしたら母さんが2つ目の話をした。
 俺がヒビキの様子を見に行ってた事ずっと知ってたって。
 最近元気がないのはヒビキが関係してるんじゃないのって。」

やはりお袋ってすごいんだなぁとつくづく思った。
カナデの事に気がついてたのも、今日俺の悩みに気がついたのも。
俺はお袋を改めて尊敬してしまう。

「俺さぁ、情けないけど、母さんにそう言われた時思いっきり
 泣いちゃったよ。
 そして全部しゃべっちゃった。
 友達は確かに沢山いるけど、
 双子の弟のキスシーンがショックだったなんて誰にも
 言えないでしょ?
 もう自分じゃどうしたらいいかわかんなかったからさ、
 はじけちゃったんだよね〜。」

フフッと恥ずかしそうに笑った。

「母さんは黙って俺の話を聞いた後、
 実は母さんも仕事の合間にヒビキを見に行ってたって。
 で、同じくヒビキの様子を見に来てる俺を何度か見かけたんだって。
 別にわざわざ言う事でもないから知らない振りをしてきたけど、
 そのうち俺の態度を見て
 今日はヒビキの所に行ってきたってわかるようになったらしい。
 自分ではそんなつもりなかったけど、
 あからさまに機嫌が良かったり落ち込んだりしてたから
 わかるわよって言われちゃった。
 で、最後に言われた言葉。
 一緒に暮らすまでに必ずもう一度ヒビキの様子を見に行って、
 今の気持ちが何なのか答えを出してきなさいって。
 俺が答えを出すまで再婚をのばすって言うんだよ。
 それってある意味脅迫じゃない?
 まあそれでホントは中2の予定だった再婚が中3まで
 延びちゃったんだけどね。」

そんな事があったんだ。
俺は離婚後一度も二人の様子を見に行こうと考えなかった。
見れば辛いだけだと思ってたから。

それに俺と同じく口数の少ない親父とは再婚する1ヶ月前に1度
話しただけ。
もう一度家族4人でやり直したいから許してくれるか?と聞かれて、
わかったと答えた。
親父は口数が少ないけど、気持ちはきちんと態度で表すから
その一言で親父の気持ちが理解できた。
でもその影でお袋やカナデが俺の心配をしてくれてたりというのが
わかって、俺はホントに幸せ者なんだと思った。

「……結局中3の時に答えを出したって事か?」

どうしても聞きたかった。
するとカナデがそらしていた視線を俺に戻す。
今朝のお袋の目と同じ、大きな壁を乗り越えた人間が持つ
とても澄んでいてまっすぐな強い瞳だ。

「うん。時間はかかったけど、俺の出した答えに母さんは笑って
 頷いてた。
 貴方達が幸せになってくれればどんな答えでも構わないって。」

……その台詞は今朝俺がお袋から言われた言葉と同じだ。
きっとお袋は本当にそう思ってくれてるんだろう。
俺達が幸せならそれでいいと。

お袋がどんな答えでもいい、と言った事。
カナデが俺のキスシーンを見て悩んだ事。
カナデが女の子と一緒にいる姿に、俺がショックを受けた事。

ここまできて俺はようやく全て理解出来た。

「……ヒビキ、俺、ヒビキが好きだよ。
 家族としてじゃなく双子の弟としてじゃなく。
 一人の人間としてヒビキを愛してるよ。」

カナデがまっすぐに俺を見ている。
でもその瞳の奥に不安が見え隠れしているのは俺の見間違いじゃないはずだ。
事実、俺の首に回されたままのカナデの腕がかすかに震えている。

……いい加減俺も腹を括ろう。

そして、俺より一足先に答えに辿り着いたカナデの不安を、
一秒でも早く消してやりたい。

「……カナデ、俺も誰よりカナデを愛している。
 気付くのが遅くなってごめんな?」

俺がそういうとカナデは本当に嬉しそうに微笑んだ。
不安そうだった瞳には喜びが満ち、そして一筋の涙が零れた。


自分と同じ顔。
誰よりも濃い血の繋がり。

それさえも俺がカナデの一番側にいる事の証のようで嬉しかった。
俺はしっかりカナデを抱き寄せ、誰よりも愛しいカナデの唇に
口付けた。


− 完 −